パネライ ルミノール デイライト クロノグラフをオーバーホールでお預かりです。
かれこれ3年くらい前になるでしょうか、最初にご相談を受けたのは…。
時計の調子が良くない、とのことでした。
その後1年程前だったでしょうかね、2度目のご相談があったのが。
着けていても止まってしまうようになってきたと…。
でもそんなに使わないから、とのこと。
そしてとうとう動かなくなってしまい、今回、遂に3度目で入院と相成りました!?
クロノグラフのリセットボタンも戻らない状態になっていました。
一見するとそれ程でもないようですが…、
でも、もう分かっています。
今までにいくつも見てきていますからね。
裏蓋に錆び、出ていますよね。
と言うことは…、
まずは竜頭ガードの下!
それから止めているネジとネジ穴!
ハイ! プッシュボタンの中!
ついでに竜頭も!
見えないところに錆のオンパレードです。
リセットボタンが動かなかったのは、錆で固着してしまったからでした。
洗浄機でクリーニング、そして錆除去を施します。
しかし今回はしっかり錆跡が残っています。
竜頭ガードを取り付けてしまえば見えないところですが、やはりもったいないなぁーと、思わずにはいられません。
オーバーホールの済んだムーブメントをケースにセッティング、裏蓋を締めて完了です。
時に錆のダメージは、時計にその傷跡を残してしまいます。
錆は初期の段階では、ある程度に拡がっていきます。
そしてその後に、今度は時間を掛けて深く下へ進行していきます。
ですから深い錆跡はかなりの時間が経過したものです。
しかも厄介なことに錆を落とした跡は、また錆が発生し易くなってしまいます。
今回の時計の場合も、最初のご相談前から錆が発生していたかもしれません。
もっと前に修理に出されていたならば、新品と同様の元の状態で使い続けられたかもしれません。
たらればの、話しをしても仕方ありませんが、皆さんにはくれぐれもその様なことにならないよう気をつけて頂きたいものです。
では、どうすれば錆を防げるでしょうか。
最近の時計ケースに使用されている材質でよく知られているものには、ステンレス、シルバー、アルミニウム、チタン、セラミック等がありますね。
その中で錆が発生するのは、ステンレス・スチールです。
その他は、素材としての一長一短ありますが、材質としては錆びない、と言うことになっています。
また高級時計に使用される貴金属である金(18金、14金等)、プラチナ(PT900、PT850等)は錆びません。
よくステン(さび)、レス(ない)、スチール(鉄)という名前から錆びないものと誤解されているようですが、実際は「さびにくい鋼」です。
ある条件下においては錆が発生してしまいます。
メーカーでも、例えば錆び難いステンレスを採用したり、錆が出ないような溶剤を塗布したりと対策をたてています。
それでも使い方によっては、やはり錆が出てしまう場合が有ります。
では錆びない材質で造った時計なら良いのでは?と思われるかもしれません。
ところが実際は錆びない材質の時計でも錆がでるんですね。
では何処に出るのか?
それは錆びない材質以外の部分、そう、ステンレスにです。
それは駒と駒を繋ぐピンやパイプだったり、ケースとベルトを固定するバネ棒やネジ、或いはバックル(止め金具)や裏蓋のみステンレスのものといった部品に使われている為です。
強度があって耐久性があり見た目もきれいが長続きする、また他の材質にくらべて加工がし易いステンレスは、現代の時計にとってやはり欠かせない素材なんです。
ところで毎日色々な時計を見ていますが、きれいな時計にはあまり錆が出ていないものです。
あったとしても表面に浮いた様な状態だったりで、洗浄機で落とせなくても少し擦れば落とせます。
これ位でしたら、その後も殆ど影響はありません。
しかし汚い(失礼!?)汚れが溜まった状態の時計では、その6、7割くらい(それ以上かも)に錆は発生している気がします。
見てすぐに分かる錆もありますが、溜まった汚れの下に錆びは発生してきますから、汚れを落としてみないと分からない場合もあります。
そしてそれは恐らく何年もメンテナンスをされていないと言うこともすぐ判ります。
つまり皆さんが出来ることは、汚れは溜めないよう気を付ける、溜まってしまったら出来るだけ落としてみる、汗をかいたり雨に濡れたりしたら外した時に拭き取って水分を残さない。
結局は、そうやって錆を出さないようにするしかないようです。
そして既に5、6年以上お使いになっていたならば、メンテナンスの時期を頭の隅に入れて置く事をオススメしておきます。
作業内容 : オーバーホール、バックル調整、錆除去、洗浄クリーニング
交換部品 : 切替車、パッキン類
修理費用 : 53,500円(税別)