BAUME & MERCIER Riviera 竜頭取れ

ボーム&メルシエ リビエラのご修理依頼です。

竜頭が取れてしまったとのことです。
しかし、その竜頭の先は真っ赤(茶)!
錆サビです。

更に竜頭の収まるチューブの中も、折れた竜頭の先の巻真と共に錆で埋まっています。

時計は動いていますが、当然時刻合わせは出来ません。
竜頭が取れた状態で1~2年位使用されていたそうですから、それもビックリです。

裏蓋を開けてみると…、

あぁ、やっぱりです。
チューブの内側から錆が吹き出すようにしてムーブメントに達しています。
錆で折れたのか折れてから錆びたのかはわかりませんが、竜頭のところから水や汗が入り込んで巻真が錆びてしまったのでしょう。
ただそれ以外にはすぐ横の機止め板とネジが錆びているくらいですが…、

やはりそれだけでは済みません。
取り出した文字盤にも錆が付着しており、表面の塗料が剥がれて取れてきます。
更にムーブメント側の巻真も錆で固着、抜けません。

ここまでいってしまうと、文字盤、竜頭、ムーブメント等々と、もう中身全取っ替えですかね。
そしてオーナーさんからは、是非お願いします!とのこと。

ハイ!かしこまりました!!

錆は腕時計にとって非常に厄介で恐ろしいんです。
オーナーさん曰く、水が混入した記憶は無く、ガラスの内側が曇ったことも無かったとのこと。
しかし巻真は非常に錆易く、知らず知らずのうちに進行していき、やがてその錆がケースの内側に広がって文字盤にまで影響が出てしまったのです。

今回竜頭は諦めて、ケース&裏蓋を錆除去と洗浄クリーニングを施します。

きれいになりましたよ。(この画像ではあまり代わり映えしていませんが…)
竜頭及び巻真は交換です。

探すこと約半年、状態の良い文字盤、竜頭、ムーブメントがやっと見つかりました。
丁度1セットでありましたので、そっくり交換しちゃいます。
いや〜良かったですね。

そしてオーバーホールを済ませてムーブメントをケースにセッティング、裏蓋を閉めて完了です。

今回のご修理の一番の問題点となったのがこの文字盤。
普通ですとメーカー修理にということで、お断りされる修理内容でしょう。
何故なら新品の部品はメーカーさんに頼むしかない訳で、いくら探してもまずありません。

ではどうするか?
そう、再利用のユーズド品であれば可能性あります。
部品の供給がすでに終わってしまったアンティークウォッチの場合では、よく行われている修理方法です。
諸事情により修理をしない(出来ない)時計から使える部品を取り出して、直したい(使いたい)時計の役に立つ。
正に資源の有効活用という点からも今で言うエコ、ウィンウィンになるわけです。

勿論通常の修理では新品の部品を使用するのが大前提です。
ウチも殆どの修理はそうしてます。
ただクォーツウォッチでも相当年数の経った時計になれば状態も様々になってきますので、もし全てを新品の部品に交換するとなると時計がひとつ買えてしまうくらいの修理代を覚悟しなければならない場合も出てきます。
メーカー保証期間もとうに切れていて、部品の使用に問題無いことを確認したものであれば、万一何かでメーカーに出す時にも問題ありませんので安心して使用できるわけです。
それに修理費用を抑えられる場合もあります。
ただあくまでも部品の入手が難しい場合の選択肢のひとつだと思って下さい。
全て見つかるわけではありませんし、それに時間も掛かります。
わたくしみたいに我慢強くないとお勧めは出来ませんけどね!?


ところで、出来上がりを本当に喜んで下さいましたオーナーさんにどうしてそこまでして(時間も費用も掛けて)時計を直そうと思われたのか伺いましたところ、31(32)年前の1990年、スイスのジュネーブへ初めて転勤になられた当時に思い切って購入された想い出の時計とのこと。
苦楽を共にした時計に最後にしっかりとメンテナンスをされたかったそうです。
「もらってくれる人もいないかもしれないけどね。」と、おっしゃるオーナーさん。
いえいえ、そんなことありませんよ!
使いたいから直してほしいって言う方、ウチにはいっぱい来てますから。
時計には、そういう思いにさせてくれる魅力があると思うんですよ。

だからどうぞ大切に、末長くお使い下さいね!

作業内容 : オーバーホール、チューブ巻真折れ除去&防水補強、錆除去、洗浄クリーニング
交換部品 : 文字盤、竜頭、ムーブメント一式、機止め板&ネジ、パッキン類
修理費用 : 68,200円(税込)