さぁ、今年もいよいよ残り僅かとなってきましたね。
恒例となりました「今年の1本!」、ご紹介したいと思いま~す。
18金のケースにシェル文字盤、周りにダイヤをパヴェセッティング。
そのどれもが、上品なジュエリーウォッチに仕上っています。
一見特に問題無さそうですが…、
まずは裏蓋のネジ。
4本のうち1本が無くなっています。
ネジ合わせ?それとも新規造りでしょうか?
ハイ、ケースのダイヤです。
ダイヤは本物ですが、オリジナルではないようです。
ケースの裏から見ると開けてある穴が不規則です。
表から見た時にもダイヤの留め方がちょっと怪しかったので、そんな感じはしていました。
昔の時計は後付けダイヤが多かったですからね。
ん?、なんだかネジの太さが違う様な…。
今のシェル文字盤というのは、金属の板に薄いシェルを貼って強度を保っています。
ですがこちらは、厚みはありますがまんまシェル(母貝)の一枚板!
このままパチンって裏蓋閉めたら割れるかもです!
怖〜っ!!
割れたらアウトです。
昔の時計には、こういう芸術品のような時計を結構見掛けたんですけどね。
オニキスやらラピスラズリやら、ブラックオパールもありました。
(そして当時の定価はメチャクチャ高かった。)
で、先ほどのネジですが左側2本は同じ太さですが、右側の1本は細いです。
しかもネジの無かったネジ穴には、どのネジも緩くてちゃんと締まりません。
コリャ参った!?
更によく見てみると同じ2本のネジは後から合わせた物のようで、どうもどのネジ穴にも合っていないんですね。
そして細いネジが元からのネジのようですが、それも摩耗が進んでいます。
18金はステンレスより柔らかい為、繰り返し使用することで摩耗したりうっかり斜めに締めたりするとネジ山が潰れてしまい、締まらなくなってしまうと交換するしかありません。
他のネジで合わせてピッタリ同じなんていうのはそう滅多にあるわけでは無く(そもそも合わせるネジを探すこと自体が一苦労)、ネジ部分の太さ、長さ、そしてドライバーを当てる頭のサイズが合っていないとしっかりと締まりません。
ネジと言えども他の部品と同様、その時計専用なんです。
補修用に僅かなサイズ違いをストックしている希少なメーカーもありますが、そうでなければ新規にサイズを合わせて造るしかありません。
前の職人さんも合わせるのに苦労したんじゃあないでしょうか。
たかがネジ、されどネジ…。
ネジ合わせ、奥が深いんです。
そしてケース&裏蓋を、いつものように洗浄機でクリーニング、が…、
メーカー純正ではまずあり得ませんが、後付けですからね〜。
止め直せばモンダイナイ、モンダイナーイ!
で、ひとつ止め直したら、2つ取れました!?
さすがにガックリ…。
モンダイナクナーイ!
原因は、メレダイヤのサイズが下穴に合っておらず小さ過ぎたせいでした。
直径0.74mmから0.84mmのダイヤに交換です。
もう落ちないで下さいネ!
ネジは左側の1本が0.8mm、右側の3本が0:7mmで計4本何とか合わせで交換。
シェル文字盤にはガタつき防止、衝撃吸収にクッションを入れました。
針の曇りも取り除きスッキリしました。
オーバーホールの済んだムーブメントをセッティング、ケースに収めて無事完了です
コチラの時計、病で入院中だったお祖母様から病室で手渡され、オーナーさんが譲り受けられたそうです。
シェル文字盤がとっても可愛くて、いつかは自分にと思い続けていたそうです。
残念ながら時計は形見となってしまったそうですが、そんな出来事も何故か笑顔で話されていたのがとても印象的でした。
きっと時計はお守り替わりになるくらい、お祖母様とは心が通じ合っていらっしゃったからなのでしょう。
ひとつのものが受け継がれていく、しかもそれはこれからまた何十年も動き続けていく。
きっとお二人の想い出と共に。
そう思ったら「ハイ、オーバーホールだけで」というわけにはなかなかいかないんですよね。
だからどうしてもひとつひとつに時間が必要なんです。
今年も一年お付き合いありがとうございました。
来年も皆様にとってより素晴らしい一年になりますように…。
ウォッチ&ジュエリーカエラ 野口伸一
※新年は1月5日(土)、6日(日)は営業、7日(月)〜9日(水)は休業、1月10日(木)から通常営業になります。