GRIMOLDI borgonobo オーバーホール

「はじめまして、Oと申します。
早速ですが、ボルゴノーボなのですが動いているのですが、長針短針が全く動かせない状態です。
送りで修理は可能ですか?」


そのオーナーさんとは、そんなお問い合わせのメールが始まりでした。

一週間程して送られて来た時計は、グリモルディの「borgonovo」。
そう、これこれ。
同タイプのモデルがぽつりぽつりとご修理依頼がきますので、ココのメーカーさんの定番なのでしょう。
その腕に沿うような大振りなオーバルケースのデザインが実に個性的です。

時計は動きましたが、どうも針の取り付けがおかしいようです。
しかも文字盤の針穴が欠けています。
そして竜頭は回せても引き出し出来ません。
確かにメールのご相談の通りです。

裏蓋を開けて見ますと…
おっと、裏蓋のパッキンがありませんね。
白い中枠も押さえになる4ヶ所全てが割れています。
また文字盤の足が抜けかかっています。(黄色丸印)

なんだか問題がありそうな時計ですよ、これは。

白いプラスチック製の中枠を外してみると、ムーブメントが文字盤から浮き上がって隙間が空いています。
落としたり強い衝撃が加えられると、この様に外れかかってしまう事がありますが…。

ところがムーブメントを取り出そうとしてみると、文字盤がケースに合っていないのか引っ掛かって取り出し出来ません。
何故文字盤が合っていないのでしょうか。

オーバーホールでお預かりしましたが、これは文字盤を削って合わせることになりそうです。

竜頭が引き出せない原因はここでした。
カンヌキが上のツヅミ車から外れています(黄色矢印)。
これも落としたりすると外れてしまうことがあります。

これが正常な状態ですね。

ケース、裏蓋、竜頭、ネジに所々錆が出ています。
洗浄機でクリーニング、錆除去を施します。

これでキレイになりました。

クリーニングを済ませたところで、なんと竜頭不良が発覚!
恐らくねじ込み式竜頭の中のスプリングバネが切れたかへたってしまった為に、付いている巻真がしっかりと固定されません。
これでは竜頭操作で空回りが起こってしまいます。

そこでオーナーさんには竜頭交換をご提案。
但し、同じ竜頭は入手出来ませんので同じ位の大きさの竜頭を合わせることになります。
がしかし、オーナーさんからは交換しないで欲しいとのこと。
その理由を伝えて下さったメールを読んてわたくし、実は胸がギュッと締め付けられるような思いになりまして…。

なんとかしてあげなければ!

使えるようになれば、とのことなので、手巻きは諦めてもらうことでご了解頂きました。
オーバーホールも済ませパッキンを取り付け裏蓋を閉めればやっと完了、のはずが最後に問題発生!
蓋を閉じると自動巻きのローターが裏蓋に当たって擦れる音がします。
割れた白いプラスチックの中枠では押さえが効かず文字盤がケース内で浮いてしまうのが原因のようです。
が、事はそう簡単には収まらず、ですが、これも試行錯誤してなんとか使えるように無事完了。

文字盤がケースの内側にピッタリ沿って収まりましたね。

今回のご修理では、このハの字になっている文字盤に手を焼くことになりました。
ココの角度が合っていない為か、文字盤中央がぴったりケースと密着しなかったのです。
と言うことは、どこかで文字盤の角度が変わってしまったのか、それとも合っていない文字盤を無理矢理入れてあったということ?
か、どうかは分かりませんが、通常の故障とはまた違う修理となったワケです。

修理の基本はやはりオリジナルが原則ですが、状況によっては加工や手を加えて直す場合があります。
今回のオーナーさんの場合、時計の原形を残しておきたい理由があった為、なんとか問題をクリアする方向で修理を行ないました。
その様な修理では、その後のリスクだったり使い方に気を使わなければならなかったり制限が出てしまう場合があったりしますので、やはり十分検討する必要があります。
コチラも最初の納品後しばらくして、文字盤を押さえていた部品がズレて自動巻が作動しなくなるというトラブルに見舞われてしまいました。
ただその後は特に不具合は起きていないようですけどね。
つまり大概の故障は最終的にはなんとかなると思っています。
もちろん修理費用や時間、それにオーナーさんの使用目的等その他条件次第というところでしょうけどね。

どういう修理がベストなのか、それをオーナーさんと一緒に考えていければ良いのかなと思っています。

作業内容 : オーバーホール、文字盤修整加工、中枠加工、錆除去、洗浄クリーニング
交換部品 : パッキン類
修理費用 : 36,300円(税込)